「あのガラガラした音、自分には出せないから才能なのかな?」
歌の練習や話し方の改善で必ずと言っていいほど登場するエッジボイス(ボーカルフライ)。
結論から言うと、エッジボイスは「生まれつきの才能」ではなく、人間なら誰でも持っている「声帯の機能」の一つです。
なぜ「できる人」と「できない人」がいるように感じるのか、そのメカニズムと秘密を紐解いていきましょう。
「エッジボイス」とは?
エッジボイスは、声帯がゆっくりと細かく触れ合いながら、パチパチ、プツプツと震えて鳴る音のことです。
普通の声のように滑らかに鳴るというより、声の始まりに小さな粒が並ぶような、かすかにひっかかるような質感があるのが特徴です。
火が小さくはぜる音や、乾いた小さなノイズが混ざるような音をイメージすると、少しわかりやすいかもしれません。
現代のJ-POPではかなり多くのアーティストが、声の入り口にニュアンスをつけたり、感情をにじませたりするために、このエッジボイスを歌の中で取り入れています。
歌唱中のエッジボイスの効果
エッジボイスは、特にフレーズの始まりで用いられることが多いテクニックです。
言葉やメロディに入る直前にエッジボイスを挟むことで、声がいきなりまっすぐ始まるのではなく、少し“ため”を作ってから入るような印象になります。
その結果、フレーズの頭にわずかな引っかかりや揺らぎが生まれ、「焦らした感」や色っぽさ、繊細さを演出しやすくなります。
ほんの一瞬のニュアンスですが、歌い出しの印象を強めたり、感情をにじませたりするうえで効果的です。
エッジボイスが出るメカニズム
エッジボイスはどのようなメカニズムで出ているのでしょうか。
普通の低い声との違いは、声帯が本来持っている「元に戻る力(弾性)」をあえて無くしている点にあります。
まずはエッジボイスを出している時の筋肉の状態から、順番に解説していきます。
エッジボイスを出している時の筋肉の状態
エッジボイスを成立させるためには、声帯周辺の3つの筋肉を連動させ、声帯を「振動しにくい重い状態」にセットする必要があります。
まず、声帯そのものであるTA筋(甲状披裂筋)を強く収縮させることで、声帯は前後に縮まり、断面が分厚くなります。
この肉厚な状態が、エッジボイスを作るための土台となります。
同時に、声帯を引き伸ばす役割を持つCT筋(輪状甲状筋)を完全に休ませます。
筋肉を縮めた上で引き伸ばす力をなくすことで、声帯の表面にある粘膜には極限のたるみが生まれます。
さらに、LCA筋(外側輪状披裂筋)を使って左右の声帯を隙間なく密着させます。
この「肉厚で、たるんでいて、強く閉じている」という準備が、エッジボイスの出発点です。
通常の低い声とエッジボイスの違い
エッジボイスの時の声帯は分厚く弛んでいる状態ですが、普通の低音発声の際の声帯も同様に「分厚く、弛んだ状態」です。
エッジボイスとは何が違うのでしょうか。
その答えは声帯自体が持つ「弾力」にあります。
通常の低音発声では、CT筋などの微弱な働きにより、声帯が弛んでいつつも若干の弾性(バネ)が残っています。
そのため、一度の振動の慣性がすぐに次の振動を引き起こします。
しかし、エッジボイスではCT筋が全く働かないので、声帯に弾力がありません。
そのため、一度振動が終わって声帯が閉じると、次に開くための空気圧力が溜まるまで、声帯は閉じたままになります。
この「声帯が閉じて沈黙している時間」が、音が連続せず、パチパチと独立した粒に聞こえる由来です。
以下にそれぞれの声帯振動のサイクルを明示します。
通常の発声サイクル
声帯が空気圧によって下側から順に押し広げられる
↓
広がりが表層まで進み、完全に離れる
↓
声帯自体の弾性・ベルヌーイ効果・LCA筋によって、下側から順にくっつく
↓
声帯が一瞬だけ完全に閉じる
↓
弾力による慣性で、またすぐに下側が広がり始める
エッジボイスのサイクル
声帯が空気圧によって下側から順に押し広げられる
↓
広がりが表層まで進み、完全に離れる
↓
ベルヌーイ効果・LCA筋によって声帯が完全に閉じる
↓
弾力による慣性が働かないので、再び空気圧が溜まるまで声帯は離れない
↓
結果、振動が止まっている瞬間(音の途切れ)が生まれる
このような声帯振動の極端なオン・オフの切り替えが、普通の発声にはない長い無音状態(空白)を作り出し、エッジボイスが生まれているのです。
エッジボイスを出したい方は「発声基礎レッスン」へ!
2.エッジボイスができない理由
〜なぜ「生まれつき」だと思ってしまうのか〜
エッジボイスができない原因を突き詰めると、実は非常にシンプルな一つの事実にたどり着きます。
それは、声帯の緊張を緩めることができていないということです。
多くの人は、ブツブツとした音が出ない自分を「声帯の形が特殊だからだ」とか「才能がないからだ」と解釈してしまいがちですが、それは大きな誤解です。
問題は身体の構造ではなく、あなたが自分の意思で喉をコントロールしようとした時に、どうしても「緩める」という選択肢が選べなくなっていることにあります。
では、なぜ私たちは、たかが「緩める」というだけのことがこれほどまでに難しいのでしょうか。
そこには、私たちの脳と身体が作り上げてきた、ある種のジレンマが隠されています。
脳が記憶している発声のプログラム
最大の理由は、私たちの脳がこれまでの人生を通じて「声を出す=しっかり筋肉を稼働させる」という回路を完璧に作り上げてしまったことにあります。
例えば、筆ペンを使って「紙に触れるか触れないかの、消えそうなほど細い線を描き続けろ」と命令された場面を想像してみてください。
私たちは普段、文字を書くときには無意識にペンを紙に押し付けています。
そのため、脳にとって「書く(声を出す)」とは、ある程度の筆圧をかける行為そのものです。
そこに突然「力を極限まで抜いて、かすかに触れるだけの距離を保て」と言われても、身体は「そんなに弱々しくしては、文字が書けない(声にならない)!」と不安になり、本能的に判断します。
その結果、ペンを紙に叩きつけるように、無意識にグッと喉の筋肉を動員して、声を維持しようと固まってしまうのです。
呼吸と連動した防衛本能
声帯が固まってしまうのは、喉自体の問題というよりも、吐き出される「息の勢い」に対して身体が反射を起こして場合も多いです。
エッジボイスは、緩めた声帯弱い吐息で「プツプツ」と鳴らす非常に繊細な発声です。
ここに強い息が吹き込まれると、緩んでいる声帯はその圧力に負けて大きく煽られてしまい、均一な振動を維持できなくなります。
そのような状態を防ぐために、強い息を察知すると体は反射的に喉の筋肉を硬直させてしまいます。
これは、強い風に吹かれたときに無意識に体を固めて踏ん張るような、身体の自然な反応です。
つまり、リラックスしようとして無防備に息を送り込むほど、その圧力が引き金となって、声帯は「形を保とう」と逆に力んでしまうのです。
この「押し寄せる息の勢い」と「それに対抗して形を保とうとする喉の踏ん張り」がぶつかり合っている状態が、声帯の柔軟な動きを妨げている正体です。
筋肉のネガティヴな連動
エッジボイスができない理由には、「筋肉の連動」という厄介な問題も絡んでいます。
本来、エッジボイスを出すには「声帯のテンション(張り)」だけをピンポイントで緩めつつ、声帯を閉じる筋肉(LCA:外側輪状披裂筋など)は適度に働かせておく必要があります。
しかし、私たちが喉を緩めようとすると、身体は「すべてのスイッチを切る」か「すべてのスイッチを入れる」かの両極端な反応をしがちです。
結果として、声帯のテンションを緩めようとした瞬間に、必要なはずの閉鎖筋(LCA)まで一緒に緩んでしまい、ただの「息漏れ」になってしまうのです。
緩めようという意識が呼ぶ緊張
さらに厄介なのが、緩めようと意識することそのものが新たな緊張を生んでしまうという皮肉な構造です。
「肩の力を抜こう」と強く意識した瞬間に、かえって肩が強張ってしまう経験はないでしょうか。
声帯は内臓に近い繊細な筋肉であり、腕や足のように直接的なコントロールが極めて難しい部位です。
それなのに「緩めなきゃ」と一点に意識を集中させてしまうと、脳からの電気信号が過剰に喉へ流れ込み、結果として意識的な緊張を作り出してしまいます。
エッジボイスができるようになる方法
エッジボイスを出すために必要な筋肉は、自分の意志で動かすのが難しい「不随意筋」です。
そのため、「筋肉をどう動かすか」と悩むよりも、特定の動きを通して喉を「その状態に追い込む」方がずっと近道です。
生まれつきの才能の有無を疑う前に、まずは喉が勝手にエッジを鳴らしてしまう仕組みを身体に覚え込ませていきましょう。
「ハッ」と息を止めてシャッターを閉める
まずは、声帯を閉じる筋肉(LCA筋)を強制的に働かせます。
短く「ハッ、ハッ、ハッ」と息を吐き出してみてください。
この「ハッ」と息が止まった瞬間、喉の奥で何かがピタッと閉じる感覚がありませんか?
これが、脳が反射的に空気の通り道を塞ごうとして、声帯を密着させた状態です。
この「息が止まった瞬間の喉」をキープすることが、エッジボイスへの第一歩になります。
最高に弱い力で低音を出そうとする
次に、「ハッ」と止めた状態のまま、自分が今出せる一番低い音を「出そうと」します。
まだ出してはダメですよ。
エッジボイスができない人は、声を出すために必要なパワーを100%で表した時に
・「10%以上でしか発声ができない」
・「0%の全く声が出ない状態か、10%以上の普通の声かの2択」
のようになってしまっています。
エッジボイスは、1〜5%のパワーでしか発声できない声だと考えてください。
つまり、1番集中すべきポイントは声を「出そうと」してから、実際に「出る」までの間です。
この間でどれだけ繊細にパワーをコントロールできるかどうかに全てがかかっていると言っても過言ではありません。
もっと簡単に一言で言うと
「未だかつて出したことがないくらいの小さいパワーで、自分が出せるMAXの低音を出しにいく」
ですね。
出した結果、普通の低音が出てしまったら仕切り直しです。
何度も出し直して、適度な出力を見つけていく
あとは、エッジボイスが出るまで繰り返すだけです。
普通の声が出てしまったら、出力さらに「下げて」ください。
その次も普通の声になってしまったら更に出力を下げて・・・
というサイクルを繰り返しましょう。
繰り返すうちに、エッジボイスが出せる出力に次第に近づいていきます。
「ボーカルレッスン」でエッジボイスの使い方を学ぼう!
エッジボイス練習の注意点
エッジボイスの練習をする上で気をつけて欲しい点があります。
エッジボイスの練習は、先述の通り極限まで少ないパワーで発声することに集中すれば大体上手くいきます。
しかし、閉鎖が足りていない、つまり、息っぽい声が出てしまう場合だけ注意が必要です。
出ている音質が息っぽいと、いくら最小限のパワーを意識したところで、エッジボイスは出ません。
そういう場合は、一旦「ハッ」で息がしっかり止まっているかどうかを確認してください。
完全に息を止めてしまってOKです。
呼吸ができない状態の声帯に徐々に徐々に圧力をかけていくことを意識しましょう。
よくある質問
エッジボイスは生まれつきできる人しかできないのですか?
いいえ、生まれつきの才能だけで決まるものではありません。
エッジボイスは特別な人だけが持っている能力ではなく、人間の声帯にもともと備わっている機能の一つです。
出せる人と出せない人がいるように見えるのは、喉の力の抜き方や弱い出力のコントロールに慣れているかどうかの差が大きいです。
エッジボイスが出ないのは、声帯の形や体質のせいですか?
多くの場合、原因は声帯の形そのものではありません。
出ない理由として多いのは、声を出そうとした時に喉の緊張が抜けず、必要以上に力が入ってしまうことです。
そのため、身体の構造の問題というより、今の発声の癖によってエッジボイスに入りにくくなっているケースがほとんどです。
普通の低い声とエッジボイスは何が違うのですか?
一番の違いは、声帯の振動のつながり方です。
普通の低音では振動が比較的なめらかに続きますが、エッジボイスでは振動と振動の間に止まっている時間が生まれます。
そのため、音が連続せず、パチパチ、プツプツと粒立ったように聞こえます。
エッジボイスを出そうとすると、普通の低い声になってしまいます。どうすればいいですか?
その場合は、出力がまだ強すぎる可能性が高いです。
エッジボイスは、普通の発声よりもずっと小さいパワーで起こる声なので、「これ以上ないくらい弱く出そうとする」ことが重要になります。
しっかり鳴らそうとするほど普通の低音に戻りやすいので、極限まで小さい力で低音に入ろうとしてみてください。
エッジボイスの練習で気をつけることはありますか?
あります。
特に注意したいのは、息っぽい声になったまま練習を続けないことです。
息漏れが多い状態ではエッジボイスになりにくいので、まずは「ハッ」と息を吐いた時に喉がピタッと閉じる感覚を確認し、そのうえで少しずつ圧をかけていくことが大切です。
まとめ
エッジボイスは、一部の人だけが生まれつき持っている特別な才能ではありません。
人間の声帯にもともと備わっている機能の一つであり、出せるかどうかは喉の力の抜き方や、ごく弱い出力のコントロールができるかどうかに大きく左右されます。
できないと感じる場合も、声帯の形そのものに問題があるというより、普段の発声の癖によって緩めたいのに緩められない、あるいは弱く出したつもりでも普通の声になってしまうことが多いです。
だからこそ大切なのは、「自分には才能がない」と決めつけることではなく、エッジボイスが出る条件を理解しながら、少しずつ適切な力加減を探っていくことです。
焦らずに繰り返していけば、喉は少しずつその感覚を覚えていきます。
エッジボイスは、生まれつきかどうかよりも、正しい方向で練習できているかどうかが大切なのです。
繰り返すうちに、エッジボイスが出せる出力に次第に近づいていきます。
東京のボイトレスクール「WACCA MUSIC SCHOOL」の無料体験レッスンはこちら!