こんにちは。WACCAミュージックスクールの演技講師、万里紗です。
このブログを書くとき、いつも何を書くべきか迷います。
なぜって、演技は課題に対する解決策が千差万別だし、ときに抽象的だったり、解決策が「人生経験」しかなかったりすることさえあるから。
でも、現場で素敵な俳優さんと接していて気付くのは、みなさん多様な趣味をお持ちであること。そして、ご本人たちは気付いてなくとも、その「余暇」がその方に独特な魅力を与えていることも。
どうやら人生を豊かに味わい、その人なりの世界観や哲学、こだわりを持っていることがその人の演技に独特の魅力をもたらすようなのです。
そこで今日は、私が今までお会いした魅力的な俳優さんたちにお聞きした「素敵な演技に役立ちそうな趣味のススメ」をご紹介しようと思います!
1.料理
料理上手は芝居上手。といっても過言ではないかもしれません。ちなみに私は料理は超苦手なのですが。
私が尊敬する俳優さんは、全員、料理が大好きなようです。
中には、こだわりの包丁を使い、こだわりの砥ぎ屋さんにだけ砥ぐようにしてもらっている、という方までいました。
漬物を漬けるなんて序の口だし、名前も知らなかったような異国料理に果敢に挑戦する人もいます。
彼らに聞くと「料理って芝居と一緒なんだよね」と言います。
「台本のように、歩むべき工程ははっきりしている。しかし、その過程に材料の状態に合わせた工夫が必要だし、一つ一つを丁寧に積み上げていかないと美味しくはならない。逆に言えば、細部への丁寧さを怠らなければ確実に美味しいものになる。細部に神は宿る、が料理と演技の何よりの共通点」なんだそうです。
2.ランニングかウォーキング
これは私も大好きなやつです!(笑)
俳優さんで、走りながら、または歩きながら台詞を覚えるという方は本当に多いのです。どうやら、ふくらはぎの筋肉を動かすことが、記憶力と関連があるとかないとか。
歩きながら・走りながら台詞をブツブツ言っていると、座ったまま台詞を覚えたときよりも、はるかに「体に落ちる」度合いが深くなります。
また、歩きながら・走りながら台詞や稽古を復習すると、自分でも予想もしなかった気付きが舞い降りてくることもあります。
哲学者のニーチェは、時には10時間歩くこともあったとかで、彼の永劫回帰という思想も散歩中に湧いたインスピレーションだったそう。我々俳優も、歩く葦たることで啓示に満ちた演技ができる・・・かな?
3.動物観察
対象の動物は多岐にわたります。猫、犬、ゴリラ、馬、鳥…
飼う人も、見る人も、パターンは色々ですが、でもなんだか、俳優は動物好きがやたら多いです。
俳優のエクササイズとして有名なもののひとつに「アニマル・エクササイズ」というものまであって、そこでは動物をしっかり観察したあと、自分の身体にその動きや質感を取り込み、さらに役の造形、役作りにまで発展させていきます。
とかく私達は、自分の身体のクセや、「こうでなければならない」という規範にとらわれがち。動物という、人間がつくった社会的ルールの外の存在からもらうインスピレーションは、はかり知れないものがあるのでしょう。
4.詩を書く・よむ
ある演出家が、ある素敵な俳優さんを指して「あの人は体に詩が満ち満ちている」と言っていたことがありました。
活字を読む習慣があることは、台本と仲良くなるための第一条件のように思いますが、それ以上に、(古今東西の)詩に親しむことは、戯曲という「声に発するための文学」に太刀打ちできる体になるための、良い筋トレなのかもしれません。
詩を書くなんてなんだか気恥ずかしいけど、自分の内側にあるものをどうしたら外側に、適切に、正直に出せるのか一語一語検証していく時間は、戯曲に立ち向かうときの私達の態度を、より思慮深くしてくれるものかもしれません。
C’est la vieの精神
役があるかどうかは私達の雇用にも直結するので分かりやすい匙加減が欲しくなってしまいますが、演技はどうやら正解があるようなないような世界。
それでも、この迷宮を味わいに行くというのなら、人生を楽しむ、楽しみきる、そんな心づもりがあることが、意外なところで俳優を助けてくれるかもしれません。