WACCA MUSIC SCHOOL

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【リップロールのやりすぎは危険】本来の使い方と正しい頻度を一挙に解説!

ボイストレーニングの定番としてよく知られている練習のひとつに、リップロールがあります。

喉に負担が少なく取り組みやすいため、日々の練習やウォームアップに取り入れている方も多いのではないでしょうか。

一方で、その使い方によっては、気づかないうちにやりすぎてしまっているケースも見られます。

このコラムでは、リップロールの役割を整理しながら、どのように使うのが適切なのかを見ていきます。

リップロールとは何の練習か

リップロールは、ボイストレーニングの中でも非常によく知られている基礎練習のひとつです。

一見すると「唇をブルブル震わせているだけ」のように見えるため、何のための練習なのかが分からないまま、なんとなく続けている人も少なくありません。

しかし本来のリップロールは、単なるウォームアップではなく、発声の土台となる感覚を整えるための、明確な目的を持った練習です。

リップロールが同時に行わせている二つの動き

リップロールとは本来、

・息を吐くこと

・声を出すこと

この二つを「同時に」行わせるための練習です。

歌うときに声が苦しくなったり、喉に力が入りやすくなる原因の多くは、「息を止めたり、堪えたりしてしまうこと」にあります。

リップロールでは、唇を震わせ続けるために、常に息を外へ流し続けなければなりません。

そのため、息を堪えることによって生まれる無意識な力みが起こりにくくなり、喉から口にかけての通り道を全体的にリラックスさせることができます。

「唇を一定の速さで震わせる」という制約の意味

リップロールにはもうひとつ重要なポイントがあります。

それが、「唇を一定の速さで震わせ続ける」という制約です。

唇が止まらず、安定して震え続けるためには、

・息が速すぎてもいけない

・太すぎてもいけない

という条件を自然と満たす必要があります。

つまりリップロールは、息の速さと細さを適度にコントロールする技術を、感覚的に身につけさせてくれる練習でもあるのです。

リップロールで得られる「支えられている感覚」

息の速さと細さをコントロールできるようになると、次第に不思議な感覚が生まれてきます。

それが、「自分は能動的には何もしていないのに、勝手に一定の息を吐き続けられているような感覚」です。

この状態は、一般的に「息が支えられている感覚」と表現されます。

力を入れて踏ん張っているわけではないのに、息が途切れず、安定して流れ続ける。

この感覚が身につくことで、歌の中でも余裕を持ってロングトーンができるようになり、声の安定感が格段に増していきます

ここまで説明してきた内容こそが、リップロールという練習が本来意図している効果です。

リップロールは「声を良くする魔法の練習」ではありません。

あくまで、息と声の関係を整え、余計な力みを取り除き、発声の土台となる感覚を作るためのものです。

この目的を理解した上で取り入れることで、リップロールは非常に有効な練習になります。

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リップロールをやりすぎると起こること

先ほどお伝えした通り、リップロールは「息を止める」「息を堪える」という動作を強く抑制する練習です。

これは、喉の力みを取ったり、余計な緊張をリセットする上では非常に大きなメリットがあります。

しかし一方で、この性質が行き過ぎた場合に起こる問題も存在します。

強い声は「息を止める動作」なしには出せない

結論から言うと、

強い声・大きい声・地声の高音は、「息を止める動作」なしでは絶対に出せません

ここで言う「息を止める」とは、完全に呼吸を止めるという意味ではありません。

息の流れをどこかで一度狭めて、空気圧を溜めるという動作のことです。

この動作がないまま強い声を出そうとすると、状態としては「暖簾に腕押し」と同じになります。

力を入れているつもりなのに、どこにも手応えがなく、声に力が乗らない状態です。

「声に力を込める感覚」の正体

強い声を出そうとしたとき、

・力を入れて声を出す
・声に力を込める
・声を前に押し出す

といった感覚を覚えたことがある人は多いと思います。

この感覚は、息を止める動作があるからこそ初めて生まれるものです。

息が常にスカスカと抜け続けている状態では、声に「抵抗」や「手応え」を感じることができません

注射器の例で考える「息と声の関係」

ここで、注射器をイメージしてみてください。

針が細い注射器は、ピストンを押したときにしっかりとした手応えがあります。

その結果、中の液体は勢いよく、遠くまで飛びます。

一方で、針が太かったらどうでしょうか。

ピストンを押す際の手応えは一気に弱くなり、液体も遠くまで飛びません。

声もこれと全く同じ仕組みです。

息が適度に止まり、通り道が絞られているからこそ、腹圧をかけたときに声としてのエネルギーが生まれます。

息が止まらないと何が起こるのか

息が止まらない状態では、

・腹圧をかけても手応えがない
・声を大きくしようとしてもスカスカする
・声に芯や押し出し感が生まれない

まさに「暖簾に腕押し」のように、声に力を入れている感覚そのものが消えてしまうのです。

リップロールをやりすぎる最大の弊害

リップロールは、息を止める動作を意図的に抑制する練習です。

そのため、やりすぎてしまうと、

「息を止めて声に圧をかける感覚」

そのものを、身体が少しずつ忘れていってしまいます。

結果として、

・強い声が出しにくくなる
・地声高音に踏み込めなくなる
・声を張ろうとすると不安になる

リップロールはあくまで「力みを取るための練習」です。

強い声を作る練習ではないということを理解せずに使い続けると、発声に必要な重要な感覚を失ってしまう可能性があります。

なぜリップロールをやりすぎてしまうのか

リップロールをやりすぎてしまう理由は、テクニック的な問題というよりも、認識の問題であることがほとんどです。

それはズバリリップロールが「一番有名なボイストレーニングの練習」だからです。

とにかく目にする機会が多い練習

リップロールは、

・プロ歌手の練習風景
・YouTubeやSNSのボイトレ動画
・テレビやドキュメンタリー映像

など、さまざまな場面で目にする機会があります。

実際に、多くのプロ歌手がウォーミングアップとしてリップロールを取り入れています。

その様子を繰り返し目にすることで、

「プロもやっている=間違いのない良い練習」という印象が自然と刷り込まれていきます。

結果として、リップロールは「効果を疑う対象」ではなく、「やって当たり前の前提」として受け取られやすくなるのです。

ボイトレ講師側も頻繁に使う理由

実際のボイストレーニングの現場でも、リップロールは非常によく使われている練習のひとつです。

ウォーミングアップの冒頭に取り入れられていることも多く、

「ボイトレの始まり=リップロール」

という光景を目にしたことがある人も少なくないと思います。

こうした使われ方が多いのは、偶然ではありません。

ボイストレーニングは、声という繊細なものを扱う指導です。

少し無理をさせただけで、喉に違和感が出たり、調子を崩してしまうこともあります。

そのため、指導の現場では自然と、

・喉を痛めにくい
・失敗が起こりにくい
・生徒の声を壊すリスクが低い

練習が選ばれやすくなります。

リップロールは、まさにこの条件を満たしていて、安全性が高く、事故が起きにくく、指導する側としても安心して使える練習です。

お金をもらって指導をしている以上、リスクを極力避ける判断が優先されるのは、ごく自然なことです。

その結果、リップロールは「よく使われる練習」として定着し、

「ボイトレではまずリップロールをやるもの」

という認識が、生徒側にも当たり前のものとして刷り込まれているのです。

「とりあえずやっとけばOK」になりやすい

リップロールは、数あるボイストレーニングの中でも、取り組みやすさが際立っている練習です。

唇が震えていれば成立するため、

「できているかどうか」が感覚的に判断しやすいという特徴があります。

声が出なくなる、喉が痛くなる、といった分かりやすい失敗も起こりにくく、

練習中に強い違和感を感じることもほとんどありません。

そのため、

「少なくとも間違ってはいなさそう」

という安心感を得やすい練習でもあります。

結果として、

「何をやればいいか迷ったら、とりあえずリップロール」

という判断が起こりやすくなります。

これは決して、練習に対する意識が低いからではありません。

むしろ、情報や選択肢が多すぎる現代において、「安全そうなものを選ぶ」というごく自然な判断です。

ただし、この「安心して選び続けられる」という性質こそが、

リップロールを必要以上にやり続けてしまう原因にもなります。

気づかないうちに、他の必要な練習に進むタイミングを逃してしまうことが無いように、目的を明確にして取り組みましょう。

やりすぎは「意識が高い人」ほど起こりやすい

皮肉なことに、リップロールをやりすぎてしまうのは、

真面目で、練習熱心で、上達したい気持ちが強い人

であることが多いです。

「基礎が大事」

「ウォーミングアップはしっかりやるべき」

という正しい考え方を持っているからこそ、

リップロールを長時間やり続けてしまうのです。

リップロールが悪いのではありません。

問題なのは、役割を理解しないまま、安心できる練習だけに偏ってしまうことです。

この点を理解するだけでも、リップロールとの付き合い方は大きく変わってきます。

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リップロールが有効なケース

ここまででお伝えしてきた通り、リップロールはやりすぎると弊害が出やすい練習ですが、決して「やってはいけない練習」ではありません。

むしろ、使いどころを正しく理解していれば、非常に効果を発揮する場面もはっきり存在します。

ここでは、リップロールが特に有効に働きやすいケースを整理しておきましょう。

声が固まっているとき

歌い始めや久しぶりに声を出すとき、

喉まわりが固く、息も声もスムーズに出てこない感覚になることがあります。

・声が引っかかる感じがする
・喉が重く、動きが鈍い感じがする

こうした状態では、いきなり強い発声をしようとすると、余計に力みが生まれやすくなります。

リップロールは、息を止めずに声を出させる構造になっているため、固まった喉まわりを安全にほぐすことができます。

ウォームアップの初期段階

リップロールは、ウォームアップの最初の入口として使う分には非常に優秀です。

声帯や呼吸の状態を一気に作りにいくのではなく、

まずは「声を出す準備」を身体に思い出させる役割を果たします。

・息と声を同時に出す感覚を思い出す
・喉に余計な力が入らない状態を作る

この段階でリップロールを使うことで、その後の発声練習や歌唱にスムーズに移行しやすくなるというメリットがあります。

喉の力みをリセットしたいとき

練習中や歌唱中に、

「なんだか喉に力が入りすぎているな」と感じる瞬間は誰にでもあります。

・高音を出そうとして力んだあと
・声を張り続けて喉が疲れてきたとき

こうした場面でリップロールを挟むと、

一度「息を止めない状態」に戻ることができ、喉や声帯周辺の緊張をリセットしやすくなります。

つまりリップロールは、

常に使い続ける練習ではなく、

状態を整えるために一時的に使う練習として捉えるのが、最も効果的なのです。

リップロールを控えたほうがいいケース

リップロールは、声を整えたり力みを取るためには有効な練習ですが、

目的によっては、続けることでかえって遠回りになってしまう場面もあります。

ここでは、リップロールを一度手放したほうがよい代表的なケースを整理します。

声量を上げたいとき

声量を上げたいときに必要なのは、

息をどこかで止め、圧を溜めた上で声に変える感覚です。

声が大きくなるときには、

・腹圧をかけたときの手応え
・声が前に押し出される感覚

が必ず伴います。

しかしリップロールは、構造上、息を止める動作を抑制します。

そのため、声量を上げたい段階で続けていると、

圧をかけたときの手応えを作りにくくなり、声が太く育ちにくいという問題が起こります。

声を大きくしたいフェーズでは、リップロールは主役ではありません。

実際に声として圧を扱う練習へ切り替える必要があります。

声に芯や押し感を作りたいとき

声に芯を作りたい、しっかりと前に出る声を身につけたい場合も、

リップロールは向いていません。

この段階では、

・息が声帯側で止まる感覚
・圧が一点に集まっていく感覚

を身体に覚えさせる必要があります。

ところがリップロールでは、

息が常に外へ流れ続けるため、

声に圧を集める感覚や、押し感を育てる動きが起こりにくくなります。

声に芯を作る段階でリップロールを続けてしまうと、

「力を入れているのに、声に手応えがない」という状態に陥りやすくなります。

このフェーズでは、

実際の発声に近い形で圧を扱う練習が必要です。

実際の歌に繋げたいとき

最終的なゴールが「歌として成立させること」である以上、

どこかの段階で、

言葉・母音・子音を使った発声

へ移行しなければなりません。

リップロールは、

・唇が震えている
・発音が存在しない

という、非常に特殊な条件の上に成り立つ練習です。

その状態に長く留まりすぎると、

実際の歌唱との感覚のズレが大きくなりやすいという問題が起こります。

歌に繋げたいタイミングでは、

リップロールから離れ、実際の歌に近い形で声を出す練習へ切り替えることが重要です。

リップロールは、

準備や調整のための練習です。

声を作るフェーズに入ったら、役割を終えた練習として一度手放す判断も必要になります。

どこからが「リップロールのやりすぎ」なのか

ここまでお伝えしてきた通り、リップロールは便利で安全な練習ですが、

問題になるのは「やること」そのものではなく、「やり続けてしまうこと」です。

では実際、どのくらいならやりすぎではないのでしょうか。

この見出しでは、リップロールが本来の役割を果たす範囲を、時間と回数の観点から整理します。

時間の目安

リップロールは、長時間行うことを前提とした練習ではありません。

あくまで声を出す前の準備や、状態調整が目的です。

そのため、時間の目安としては、

・30秒〜1分程度
・長くても2〜3分以内

に収めるのが適切です。

これ以上続けても、

喉がさらに良くなるわけでも、声が強くなるわけでもありません。

むしろ、「息を止めない状態」に身体が慣れすぎてしまうリスクが高くなります。

リップロールを始めて、

息や声がスムーズに出る感覚が戻った時点で、役割は十分に果たされています。

回数の目安

リップロールは、何セットも繰り返す必要がある練習ではありません。

基本的には、

・歌う前に1回
・力みを感じたときに1回

この程度で十分です。

ウォームアップとして何度も挟んだり、

発声練習の合間ごとにリップロールに戻ってしまうと、

常に「準備段階」から先に進めなくなってしまうことがあります。

リップロールをやったあとに、

必ず次の練習や実際の発声に移行できているか

ここが、やりすぎかどうかを判断するひとつの基準になります。

リップロールは、

状態を整えるための「通過点」です。

それ自体が練習の中心になり始めたら、やりすぎのサインだと考えてよいでしょう。

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よくある質問

リップロールは毎日やったほうがいいですか?

毎日やること自体が問題になるわけではありません。

ただし、毎日「長時間」やる必要はありません

リップロールは、声を鍛える練習というより、

その日の声の状態を整えるための調整手段です。

毎日使う場合でも、

短時間で切り上げ、必ず次の発声や歌に移行できているかが重要になります。

喉が疲れたときはリップロールを続けたほうがいいですか?

一時的に喉の力みを取る目的であれば、リップロールは有効です。

ただし、疲れた状態で長く続けるのはおすすめできません。

喉が疲れているときは、

「回復させたい」のか、「練習を続けたい」のか

を分けて考える必要があります。

リップロールで一度状態をリセットしたら、

それ以上無理に声を使わない判断も重要です。

高音が出ないときはリップロールを多めにやるべきですか?

高音が出ない原因は、

力みの場合もあれば、圧や支えが足りない場合もあります。

リップロールは前者には有効ですが、

後者の問題を解決する練習ではありません。

高音が出ないからといってリップロールの時間を増やしても、

必要な感覚とは別の方向に慣れてしまうことがあります。

歌う直前までリップロールをしていても大丈夫ですか?

歌う直前までリップロールだけをしている状態は、あまりおすすめできません。

理由は、歌に必要な発声条件とリップロールの条件が大きく異なるからです。

歌う前には、

実際の母音や言葉を使った発声

に一度は移行しておくことで、感覚のズレを減らすことができます。

リップロールは、

歌の直前ではなく、その「一歩手前」までと考えるのが適切です。

リップロールができないのは問題ですか?

リップロールがうまくできなくても、

それ自体が発声の良し悪しを決めるわけではありません

唇の形や筋力、癖によって、

リップロールが成立しにくい人もいます。

大切なのは、

リップロールができるかどうかではなく、声の状態がどう変化しているかです。

あくまで手段のひとつとして捉え、

できないこと自体を気にしすぎないようにしましょう。

リップロールができないのは問題ですか?

リップロールができないこと自体が、直ちに発声の良し悪しを決めるわけではありません。

実際に、歌が上手くプロとして活動している人の中にも、リップロールが苦手な人はいます。

ただし、注意しておきたい点もあります。

リップロールが成立しない場合、息を流したまま声を支える動作がうまく使えていない可能性があるためです。

リップロールは、息を止めずに一定の流れを保てなければ成立しません。

まったくできない状態が続く場合は、呼吸や支えの使い方を一度見直す材料になります。

大切なのは、できる・できないで判断することではなく、今の声の状態を知るための指標として捉えることです。

まとめ

リップロールは、正しく使えばとても優れた練習です。

一方で、目的や段階を考えずに続けてしまうと、本来身につけたい感覚から遠ざかってしまうこともあります。

大切なのは、

「リップロールができているか」ではなく、

「今、自分は何を身につけたいのか」を常に意識することです。

声を整えたいのか。

力みをリセットしたいのか。

それとも、実際の歌に繋げたいのか。

目的が変われば、選ぶべき練習も自然と変わっていきます。

リップロールは主役ではなく、必要な場面でだけ登場する脇役だと考えてみてください。

今回の内容が、

「なんとなく続けていた練習」を見直すきっかけになり、

あなたの声づくりがよりスムーズに進む一助になれば幸いです。

自分の声と丁寧に向き合いながら、無理のないペースで練習を続けていきましょう。

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