WACCA MUSIC SCHOOL

お知らせ/コラム

毎月講師会、研修、発表を行いより良い教え方を共有し、成果の感じられるレッスンを行えるよう努めています。

絶対に失敗しないボイトレのやり方ロードマップ

「ボイストレーニングって、何から始めたらいいの?」

「自己流でやってきたけど、伸び悩んでいる…」

そんな方に向けて、発声の仕組みを根本から理解しながら、確実に上達していくための5ステップをお伝えします。

このロードマップは、ボイトレ初心者にも、ある程度経験がある方にも有効です。

順番通りに進めることで、喉を痛めることなく、無理なく音域や音量、表現力を向上させることができます。

ステップ①:腹式呼吸 ― 喉を守る発声の出発点

ボイトレを始めたらまず腹式呼吸を身につけましょう

そう言われた経験のある人は多いと思います。

けれど、なぜ腹式呼吸が必要なのか、実際にはよく分からないまま「とりあえずお腹を動かしてみる」程度で終わってしまっていないでしょうか?

実は腹式呼吸とは、ただ息の吸い方を変えるテクニックではありません。

発声時の喉の負担を根本的に解消するために、最優先で取り組むべき基礎の基礎なのです。

喉が締まる原因は、吸う時点から始まっている

人の身体は、息を吸う際に「横隔膜」が下がることで肺に空気を取り込む構造になっています。

ところが、横隔膜がうまく下がらないと、肺を膨らませるために肩や首の筋肉で無理に胸郭を引き上げて呼吸しようとする動きが出てきます。

このとき、すでに「首が力む」という現象が始まっています。

そしてこの首や喉周りの力みは、息を吐いて声を出すときにも続いてしまうのです。

というのも、呼吸の際に胸郭を持ち上げたということは、吐くときにそれを下げる動作が必要になります。

その際に、首の筋肉が胸郭を下げる動作の「拮抗筋」として作用しなければならなくなり、吸ったときの力みが吐く時にも残留するというわけです。

つまり、このようになります:

横隔膜が下がらずに首や肩の力で息を吸ってしまう

→ その力みが呼気時にも続く

→ 喉が締まりやすくなる

→ 歌うたびに苦しさや圧迫感を感じるようになる

これが、発声中に喉が締まってしまう根本原因の一つです。

横隔膜は「横に広がる」ことでしか下がらない

横隔膜はドーム状の筋肉で、息を吸うときに下へ沈むように動きます。

しかし、実際にはその動きは“横に広がる”ことによって生まれるという特性があります。

つまり、横隔膜をしっかり下げるには、肋骨が横方向に広がることが不可欠なのです。

しかし現代人の多くは、姿勢の悪化や呼吸の浅さから、肋骨周辺の筋肉が固まり、十分に広がらない状態になっています。

このような状態では、どれだけ「腹式呼吸をやろう」と意識しても、横隔膜はうまく動きません。

最初にやるべきは「肋間筋のストレッチ」

横隔膜の動きを引き出すために、まずは肋骨と肋骨の間にある肋間筋(ろっかんきん)を柔らかくすることから始めます。

この筋肉が癒着(長期間動かさず固まった状態)していると、肋骨の可動域が狭くなり、呼吸も当然浅くなります。

そこで有効なのが「肋間筋ストレッチ」と「深呼吸の繰り返し」です。

これらをセットで行うことで、少しずつ肋骨の可動域が広がり、横隔膜が下がりやすくなっていきます。

練習の目安:「お腹だけで吸っても、十分に吸える」と思えること

このステップの一旦のゴールは、「胸の上の方を使わず、お腹だけで十分に息が吸える」と感じられるようになることです。

腹式呼吸に慣れていない人が、最初にお腹だけで息を吸おうとすると、たいてい「まだ吸い足りない気がする」と感じます。

この「吸い足りない感覚」があるうちは、どうしても首や肩に力を入れてしまう=喉が締まるというループから抜け出すことができません。

したがって、最初の段階では「腹式呼吸をマスターすること」ではなく、「胸郭に頼らなくても吸えているという安心感を得ること」を目指すのがポイントです。

具体的な練習法の例

  • ・肋骨の外側に手を当て、吸うときに横に広がるのを感じるようにする
  • ・仰向けになり、お腹に本などを置いて、上下する様子を見る。
  • ・息を吸う際に「肩が動いていないか」を鏡で確認する
  • ・朝晩のルーティンとして、ストレッチしながら10回深呼吸を行う

こちらの動画も参照↓

腹式呼吸=“喉を守る最初の防波堤”

世の中には、「腹式呼吸なんて自然にできてるよ」という意見もあります。

しかし、それは「喉が締まっていない」ことを前提にした場合の話です。

あなたが「喉が苦しい」「高音がつらい」と感じているなら、それは腹式呼吸が正しくできていない証拠かもしれません。

喉の力みは、発声時だけでなく、吸気の段階で始まっている。

このことを理解し、肋骨の柔軟性と深い呼吸を獲得することで、あなたの発声は“苦しいもの”から“自然なもの”へと確実に変わっていきます。

ステップ②:息を流す ― 喉締めの正体をほどく

「歌っていると喉が締まる」「高音になると苦しくなる」

そんな悩みを抱えている人の多くが見落としているポイント――それが「息をうまく流せていないこと」です。

実は、喉が締まってしまう大きな原因のひとつは、呼気(吐く息)のコントロールができていないことにあります。

腹式呼吸を身につけたその次は、いかに自然に・無理なく・滑らかに息を流せるかが、喉の力みを抜いていくための鍵となるのです。

胸式呼吸のままだと、息は“押し出されて”しまう

多くの人は、無意識のうちに「胸式呼吸」をしています。

これは、胸郭(肋骨)を上下に動かすことで呼吸するやり方で、普段の生活には十分ですが、歌う上では致命的な弱点を含んでいます。

なぜなら、胸式呼吸では息を「コントロールしながら吐く」ことがほとんどできないからです。

胸郭を一気に下げる力で息を吐こうとするため、呼気量の調整がきかず、息が常に強く出てしまうのです。

この「強く出すぎる息」に対して、身体は無意識のうちにブレーキをかけます。

実際に声を出すとき、息の勢いが強すぎると、声帯はそれに耐えきれず破綻してしまうからです。

このときに働くのが、声帯の“上側”に位置する「息を堰き止める器官」です。

たとえば…

  • 仮声帯(かせいたい):喉の上部にある補助的なヒダ
  • 喉頭蓋(こうとうがい):気道に蓋をする役目を持つ器官

これらは物を飲み込む動作(嚥下動作)と連動して動くようにできています。

喉がグッと上がるような感覚、喉仏が持ち上がるような動き。

それこそが「嚥下運動」であり、この動きによって仮声帯や喉頭蓋が強力に作動し、強い喉締めが起こります。

つまり、息の出し方に問題があると・・・

息を強く吐いてしまう


→ 身体がそれを止めようとして嚥下動作が起こり、仮声帯や喉頭蓋が動く
→ 結果的に喉が締まる
→ 苦しさ・詰まり・圧迫感を感じるようになる

という悪循環が生まれます。

息を「止めない」「詰まらせない」ことが大前提

ここで重要になるのが、「息を流す」感覚を取り戻すことです。

これは、ただ勢いよく息を吐くという意味ではありません。

むしろ、滑らかに、一定のスピードで、喉を通してあげることが目的です。

喉を締めない発声を目指すには、この「堰き止め」を起こさない自然な息の流れが欠かせません。

堰き止めていない声は「浮く」

これができると、声は喉ではなく口先から鼻辺りだけで鳴っているような感覚になります。

喉の感覚が全くなくなるので、あたかも声が「浮いた」ような感覚になるのです。

これは息を堰き止める動きがなくなった影響で声帯の軟骨部が適度に開き、声帯だけが綺麗に振動することによってこのような体感になります。

喉に感覚があるまま音程を上げたり、ボリュームを大きくしたりすると、その感覚が次第に喉締めに変化していくので、楽に出せる音程から無くして行くことが大切です。

息を流す練習の具体例

息を流す練習はハミングで行うのが効果的です。

詳しくはこちら↓をご覧ください。

【歌が上手い人の秘密をボイストレーナーが解説!】ポイントは「息」にあった!

息が流れなければ、声は閉じ込められる

発声において「息を流す」というのは、単なるテクニックではありません。

それは、あなたの声が“自然に鳴る”ための通り道を開くことです。

無理に押し出すのでもなく、押し殺すのでもなく、ただ滑らかに通っていく息を感じられたとき、喉の圧迫からは確実に解放されていきます。

腹式呼吸で得た深い呼気を、今度は喉を締めることなく流せるようにする。

それが、この第2ステップの核心です。

ステップ③:声門上圧をかける ― 息が保つ仕組みを体得する

腹式呼吸で喉の力みを防ぎ、息をスムーズに流せるようになってくると、次に多くの人が直面するのが「息が長く持たない」という感覚です。

これは、息を押しとどめる癖が取れてきたことで、呼気がスムーズに出ていくようになった証でもあります。

しかしその一方で、「声が続かない」「ロングトーンが保てない」といった新たな課題を感じ始めるようになります。

声門上圧で息を長く保つ

この段階で必要になるのが、「声門上圧(せいもんじょうあつ)」という感覚を身につけることです。

声門とは声帯がある部分の名称で、その上に生まれる空気の圧力を「声門上圧」と呼びます。

この圧力をうまく活用することで、息が流れていてもすぐには尽きず、無理なく声を持続できる状態が実現できるようになります。

良い堰き止めと、悪い堰き止め

声門上圧を生む動きと、先程から悪者のように言われている「息を堰き止める動き」は、動作の種類としては同じです。

良い堰き止めと、悪い堰き止めの違いは、その「度合い」です。

軽く堰き止められている時は、先程お伝えしたように声は浮いたままになります。

過度な堰き止めは、行った途端に喉で堪えているような感覚になるのです。

声門上圧のイメージ

軽い堰き止めのイメージをあえて伝えるなら、喉は全く無感覚のまま、上顎から鼻先の部分に“空気の壁”が寄ってくるようなイメージです。

声門上圧は必ず「こちらに向かってくる感じの力」として現れるので、その力を喉ではなく、上顎から鼻先にかけての部位で感じるべきなのです。

声門上圧を身につけるトレーニング

この繊細なバランス感覚を身につけるためには、専門的には「セミオクルーディッド・トレーニング(Semi-Occluded Vocal Tract Training)」と呼ばれる練習法が効果的です。

これは「声道を半分だけ閉じた状態で発声する練習」のことで、以下のようなトレーニングが含まれます。

  • リップロール(唇をプルプル震わせながら声を出す)
  • ハミング(口を閉じて鼻腔に響かせる発声)
  • ストロー発声(細いストローで息を通しながら発声する)

これらの練習によって、喉を締めずに空気を支える感覚が養われ、声門のすぐ上に適切な空気圧を作ることが可能になります。

声帯の振動がより安定し、少ない息でも響きのある声が長く出せるようになっていくのです。

声門上圧は発声の土台

このステップは、一見地味で抽象的に思えるかもしれませんが、後にミックスボイスやベルティングを習得するための土台になります。

息を流すことと保つことは、矛盾するように見えて、実は両立できます。

その感覚を実際の声の中で掴んでいくことが、このフェーズの最大のテーマです。

ステップ④:筋力の強化とミックスボイスの習得

声門上圧が安定し、喉を締めずに息を保てるようになってくると、次に必要なのは発声そのものを支える筋力です。

ここで言う筋力とは、いわゆる身体的な筋トレとは異なり、喉周辺の非常に繊細な筋肉を適切に動かす力のことを指します。

具体的には、次の3つの筋力をバランス良く鍛える必要があります。

  • ・喉頭(喉仏)を下げる筋力
  • ・声帯そのものをしっかり閉じる筋力
  • ・声帯を引き伸ばす筋力

この3つが連携して初めて、息が流れた状態のままでも、高くて力強い声を安定して出すことができるようになります。

どれか一つが弱ければ、音域の拡張も、声の密度も頭打ちになります。

喉の筋力トレーニングメニュー「アンザッツ」

ここで有効なのが、「アンザッツ」というトレーニング法です。

アンザッツは、母音や共鳴の使い方を意図的に変えながら、喉の筋肉を狙って刺激していく練習法で、段階的に負荷を調整しながら効率良く強化できるのが特徴です。

ステップ③までの段階だと、ほとんどの場合息が流れた地声で上がっていくとD4(レ)の音あたりで限界を感じます。

そこを超えようとすると、息が堰き止められて詰まったような声になったり、急に裏声へひっくり返ったりしてしまいます。

ですが、継続的に筋力を鍛えていくことで、この限界は徐々に上がっていきます。

地声感のあるまま、A4(ラ)付近まで音域を広げられるようになると、発声の自由度が一気に高まります。

裏声の低音の練習がカギ

E4〜A4辺りの音域に差し掛かると、地声の筋力だけでは支えきれなくなってきます。

そこで重要になるのが、裏声の筋力です。

裏声は、声帯を引き伸ばしたまま繊細に振動させる発声です。

この動きは、地声で高音を出すときにも必要になるため、裏声を鍛えることが地声の高音を安定させる土台になります。

特に、裏声の低音域をしっかり練習することで、地声の高音域を声帯を引き伸ばしたままコントロールする感覚が養われ、スムーズに音程を上げられるようになります。

裏声の低音は「ミックスボイス」の要

裏声の低音を練習するもう一つのメリットは

地声と裏声の行き来がスムーズになることです。

地声発声の中に裏声特有の声帯の扱い方を差し込んで行けるようになるので、地声のまま登ることも、途中から裏声に切り替えることも自由自在になるのです。

このように、地声と裏声を滑らかに融合させていく技術が「ミックスボイス」です。

最初はうまくいかなくても、裏声のトレーニングと筋力強化を並行して積み重ねていくことで、喉に負担をかけずに音域を広げられるようになります。

このステップを丁寧に乗り越えることで、次の段階である「張り上げても喉が痛まない声」、つまりベルティングボイスへと進んでいくことができます。

ステップ⑤:ベルティングボイスの習得

喉の筋力が強化され、ミックスボイスで地声と裏声の切り替えがスムーズにできるようになってくると、さらに上の音域を、より力強く響かせたいと感じるようになるはずです。

この段階で登場するのが、「ベルティングボイス」という発声法です。

ベルティングボイスとは

ベルティングとは、高音を張り上げるように出しているにもかかわらず、喉に負担をかけず、地声の感覚を維持しながら響きを拡大させるテクニックのことです。

うまく発声できたときには、声の響きが喉ではなく、上顎や前歯あたりに集まるような感覚になります。

口先だけで軽く歌っているように感じるのに、しっかりと大きな音が出ている。

そのような「軽さ」と「パワー」が共存するのが、ベルティングの理想的な状態です。

ベルティングボイスには声帯伸展と、息の堰き止めの両立が必要

ベルティングで出す高音(たとえば男性ならC5#、女性ならE5あたりまで出せます)は、声帯がきれいに引き伸ばされた状態でないと出せません。

しかし、声帯が引き伸ばされると厚みが減ってしまうので、強い呼気圧でパワフルに出すことが難しくなります。

そこで、「声帯は伸ばしまま、仮声帯や喉頭蓋といった器官で息を堰き止める動作」が必要になります。

息が適度に堰き止められることで、強い呼気圧を加えても発声が破綻しなくなり、パワフルに声を出すことが可能になるのです。

堰き止めと伸展の両立の難しさ

ベルティングボイスを成立させるには、「声帯を伸ばしながら、しっかり息を堰き止める」という、相反する要素の同時操作が必要になります。

堰き止める動きは嚥下動作を利用して行われますが、嚥下動作が起こると声帯はきつく閉じようとするがあまり短縮してしまうので、ベルティングに必要な「伸ばしながら堰き止める」はかなり高度な技術が必要なのです。

ベルティングボイスの練習方法

このスキルを磨くためには、「裏声で息を堰き止める」発声練習が効果的です。

たとえば、裏声を鋭く前に飛ばしたり、極端に奥に引っ込めてみたりしながら、仮声帯に少しずつ鬱積(=息の堰き止め)を加えていきます。

(詳しくは地声を高くする方法をチェックしてください。)

ただし、このトレーニングは難易度が高く、間違った方法で行うと喉を痛めてしまうリスクもあるため、できれば信頼できるボイストレーナーの指導のもとで実施するのが望ましいです。

うまくベルティングができるようになると、パワフルな高音も、喉の力みによるストレスなく出すことができます。

発声の自由度が飛躍的に高まり、歌の表現力そのものが次のステージへと進みます。

絶対に失敗しないボイトレのやり方ロードマップ ― まとめ

ここまで紹介してきた5つのステップは、それぞれが独立した要素ではありません。

すべてが密接に関係し合いながら、積み重なって次のステージへとつながっています。

  • ・腹式呼吸:喉締めを取り除く土台となる呼吸の準備
  • ・息を流す:声帯に不要な圧力をかけず、喉を開放する習慣づけ
  • ・声門上圧をかける:息が保たない問題を乗り越え、ロングトーンを安定させる
  • ・筋力の強化とミックスボイスの習得:高音域でも息の流れを保ちながら発声できるようになる
  • ・ベルティングボイスの習得:最大音域を、最大音量で、喉に負担なく響かせる技術

すべてのステップに共通しているのは、「喉を締めないこと」です。

そして、そのために必要なのが、「息を適切に扱うこと」と「必要な筋力を備えること」です。

多くの人が「もっと高い声を出したい」「もっと響かせたい」と感じたとき、つい力で押し切ろうとして喉を壊してしまいます。

でも、本当に必要なのは、強く出す力ではなく、“適切にコントロールする技術”です。

焦る必要はありません。

それぞれのステップを、正しく丁寧に積み重ねていけば、必ず声は変わります。

喉を傷めずに歌い続けるために、そして、自分の本当の声を見つけるために。

このロードマップを、ぜひ一歩ずつ進めてみてください。

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