WACCA MUSIC SCHOOL

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【ミックスボイスって結局何?】ボイストレーナーが解説する最新のミックスボイス理論!

みなさんこんにちは!

突然ですが、ミックスボイスってご存知ですか?

高音を楽に出すテクニックとしてかなりポピュラーになりつつある「ミックスボイス」。

しかし、その実態は語る人によってバラバラで、謎に包まれています。

今回は具体例を出しながら、謎に包まれたミックスボイスを解き明かしていきます。

それでは行ってみましょう!!

ミックスボイスができている人の特徴

ミックスボイスが何なのかを解き明かすには、ミックスボイスの特徴を掴んで、聞き分けられるようになってしまうのが1番の近道です。

みなさんはテレビで歌番組を見たり、歌の上手い友達とカラオケに行ったりした時に、「”音量”が変わらずに”音程”を高くできる人」を見たことはありませんか?

音量を「必死さ」「パワー感」と言い換えても良いかもしれません。

とにかく、「低音の時と労力が変わらないまま高音を出している人」です。

おそらく、テレビに出られているアーティストはほとんどの方が当てはまりますよね。

これは、テレビに出ているアーティストのほとんどがミックスボイスを使えるということを表しています。

裏を返せば「”音量”を変えずに”音程”を高くできる人は全員ミックスボイスが使えている」ということになります。

ミックスボイスができているかどうかの判断基準

「”音量”を変えずに”音程”を高くできる人は全員ミックスボイスが使えている」とお伝えしましたが、低い音から少し低い音へ若干音程を上げる程度なら、誰でも音量を変えずにできてしまいますよね。

音量がどうしても大きくなってしまうのは、男女共にE4.F4.G4のエリアです。

この辺りの音域を、音量を変えずに優しく、だけど地声の体感で出すことができれば、ミックスボイスができている可能性が高いです。

「ミックスボイス」という声は無い

先ほど、プロのアーティストのほとんどはミックスボイスが使えているとお伝えしました。

しかし、当たり前ですが、プロのアーティストは全員声が違いますよね。

「一人一人声が違うのに、ミックスボイスが使えているって、どういうこと?」

と思われるかもしれません。

結論から言うと、ミックスボイスは特定の音質の声を指すのではなく、「”音量”を変えずに”音程”を高くできる”状態”」のことを指すのです。

だから「同じミックスボイスなのに、声質が異なる」という現象は、当たり前のことなのです。

それではここからは、どのようにすればミックスボイスの状態になれるのかという話をしていきます。

ミックスボイスができている人と、できていない人の違い

ミックスボイスができる人と、できない人の違いはズバリ「地声を出す際に、声帯が伸ばせているかどうか」です。

音程を上げるには
①声帯を伸ばして薄っぺらくする

②声帯に当てる空気を強くする(声を大きくする)

この2通りの方法があります。

ミックスボイスができる人は、地声で音程を上げていく時に①の方法で音程を上げていくことができます。

そのため、高音になっても声のボリュームを上げる必要がなく、一定の音量・労力で音程を上げることができるのです。

それに対してミックスボイスができない人は、地声を出す際に②の方法しか選択できません。

だから音程が上がれば上がる程大きな声を出そうとしなくてはならなくなり、どんどん苦しくなっていくのです。

ミックスボイスができない理由

ミックスボイスができない人は、なぜ地声の時に声帯を伸ばして薄くできないのでしょうか。

その理由は、声帯の構造から説明する必要があります。

少し難しい話になりますが、頑張って付いてきてください。

声帯を閉じる筋肉と、声帯を分厚くする筋肉

以下の画像をご覧ください↓

(出典:益田 慎(監修)「Crosslink 言語聴覚療法学テキスト 発声発語・摂食嚥下の解剖・生理学」株式会社メジカルビュー社、2022)

これは声帯を上から見た画像です。

よく見ると、声帯の筋組織が外側と内側で分かれているのがわかるかと思います。

外側を「甲状披裂筋(コウジョウヒレツキン)」内側を「声帯筋(セイタイキン)」と呼びます。

甲状披裂筋は、声帯の外側を「縮めて分厚くする筋肉」です。

声帯筋は、声帯の内側を「縮めて少し分厚くしながら寄せる筋肉」です。

どちらも「縮めて分厚くする」という機能は一緒ですが、声帯筋には「声帯の内側同士を寄せて、声帯を閉鎖する」という機能があり、分厚くする割合も甲状披裂筋に比べて小さいという違いがあります。

地声と裏声の定義

なぜ声帯に厚みを調整する機能があるのかというと、それが地声か裏声かを決定付けているからです。

地声なのか裏声なのかは、シンプルに「声帯の質量」で決まっています。

声帯が分厚くなり、質量が増せば地声に感じる声が出て、反対に声帯が薄くなり、質量が減れば裏声に感じる声が出る、という理屈です。

ミックスボイスができない人は「甲状披裂筋」と「声帯筋」を分けて動かせない

ミックスボイスができない人は、「地声を出そう」と思った瞬間に声帯の質量を増すことにフルコミットしてしまうので、甲状披裂筋と声帯筋が同時に発動し、声帯は過度に分厚くなり、声帯を薄く扱うという選択肢を自ら手放してしまいます。

だから地声で声帯を伸ばすという状態が作れないのです。

逆に声帯を薄く扱おうとしても、今度は声帯を薄くすることにフルコミットしてしまい、甲状披裂筋と声帯筋が両方とも弛緩し、一気に質量が減り、弱々しい裏声になってしまいます。

高音が、ボリュームの大きすぎる地声か、小さすぎる裏声でしか出せなくなってしまうのは、これが理由です。

総じて、ミックスボイスができない原因の根幹は、「甲状披裂筋と声帯筋を別々に動かせない」という部分にあるのです。

反対に、ミックスボイスができる人は、「甲状披裂筋と声帯筋を別々に動かす」ことができるので、「甲状披裂筋を弛緩させ、声帯筋のみに力を入れた地声」を出すことが可能です。

声帯筋は甲状披裂筋に比べて分厚くなる割合が小さいので、「地声だけど、分厚過ぎないちょうどいい厚さ」を作ることができます。

だから音量を上げなくても、音程を上げていくことができるのです。

加えて、声帯筋は声帯の縁を綺麗に閉鎖する役割もあるので、息漏れなくハッキリとした、強い音質の声を作ることもできます。

つまり、高音を楽に、かつ強い音質で出すことが可能になるのです。

プロが楽そうに強い高音を出しているのは、こういったカラクリがあるからなのです。

ミックスボイスができるようになるためのトレーニング方法

ここまでで、ミックスボイスができる人とできない人にどんな違いがあるのかを明らかにしてきました。

甲状披裂筋と声帯筋が別々に動かせるのかどうか、でしたね。

ミックスボイスができるようになるためには、それぞれを別々に動かす訓練を行う必要があります。

訓練といっても、理論はとても単純です。

ミックスボイスが「甲状披裂筋が弛緩し、声帯筋が緊張している状態の声」なのだとすれば、

・両方とも緊張している状態(過度に分厚い地声)から甲状披裂筋だけを抜くか

・両方とも弛緩している状態(裏声)に声帯筋だけを入れられれば

ミックスボイスの状態が成立するはずだからです。

ここからはその具体的な方法について解説していきます。

分厚い地声から甲状披裂筋だけ抜く方法

地声を出す際に甲状披裂筋が問答無用で発動してしまうのは、呼吸が原因の一つになっています。

甲状披裂筋は声帯を分厚くしてくれる筋肉なので、強い息が肺から送られてきた時に大活躍します。

声帯にある程度分厚さが無いと、強い空気に吹き飛ばされてしまうからです。

強い空気は、腹筋の発動によって生み出されています。

つまり、腹筋の発動に呼応するような形で、甲状披裂筋も発動するのです。

しかし息を吐く方法は、なにも腹筋の発動だけではありません。

吸気の際に下がる横隔膜は、吸い終わると自然と元に戻ろうとするので、その力を利用して腹筋を使わずに息を吐くことができます。

この横隔膜の習性を利用して、腹筋を発動させずに息を吐くことができれば、甲状披裂筋の発動を抑制できるのです。

ただし、ここで一つ問題があります。

腹筋を使わずに息を吐いていられる時間は、とても短いということです。

試しに、リップロールができる方は声を出さずにリップロールをしてみてください。

まず目一杯空気を吸い込み、声を出さないリップロールでゆっくり空気を吐いていきます。

最初はどこにも力を入れなくても自然とリップロールができるはずですが、徐々に腹筋に力を入れないとリップロールが維持できなくなってきますよね。

この腹筋に力を入れ始めるまでの時間が、腹筋を発動させずに息を吐けている時間です。

この間は甲状披裂筋の発動を抑制することができます。

しかし、この腹筋に力を入れ始める前の状態で歌うということを想像すると、どうでしょうか?

今はリップロールなのでまだ息が持ちやすいですが、歌となると途端に息が足りなくなって、腹筋に力を入れたくなるはずです。

横隔膜はトレーニングをしないと勢いよく元に戻っていこうとするので、ほとんどの人は腹筋を使わずに息を吐いていられる時間が極端に短いのです。

その代わり、横隔膜はトレーニングによって、いくらでも腹筋を使わず息を吐いていられる時間を伸ばすことが可能なので、先ほどのリップロールを用いて腹筋を使わないでできる時間を増やしていきましょう。

腹筋を使わないで吐ける時間が15秒くらいにできればかなりナイスです。

だんだんとリップロールではなく声に変換していきながら、腹筋を使わずに声を出す癖をつけていきましょう。

うまくいけば、喉に引っかかりが全く無い、口先だけで出しているかのような、軽い体感の地声を出せるようになっていきます。

それが、甲状披裂筋が発動していない地声です。

裏声に声帯筋だけ入れる方法

こちらの方法はシンプルで、裏声をロングトーンしながら、なるべく鋭くハッキリとした音質の「ア」に変えていくだけです。

声帯筋が稼働し始めると声帯同士の隙間が無くなり、息っぽい感じが消え、ハッキリとした音質になっていきます。

裏声体感のまま、なるべくハッキリした音質を目指していくのです。

声帯筋はB3〜B4の範囲が最も稼働しやすいと言われているので、B4から始めて、ロングトーンをしながらだんだん音程を下げていきましょう。

するとG4.F4辺りから、ハッキリした音質に変化させづらくなるのを感じるはずです。

声帯筋に神経支配が行き届いてくると、G4〜B3の範囲が裏声体感にも関わらず、強い音で出せるようになってきます。

コツがお伝えできなくて非常に心苦しいのですが、とにかくロングトーンの中で強く、ハッキリした音質のアを目指してください。

この練習のNGパターンは
・地声になってしまうこと

・ノイズや揺れが起こること

この2つです。

かなり集中しながら行わないとエラーに気付かないので、10分程度の短い時間で、集中して取り組むようにしましょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回のコラムで1番お伝えしたかったのは、「甲状披裂筋と声帯筋を別々に動かせるようにならないと、高い声は楽に出ない」という部分です。

このコラムで紹介したトレーニング方法はほんの一例なので、それ以外にもミックスボイスのために必要な練習はたくさんあります。

気になった方は、ぜひ無料体験レッスン にお越しください。

ミックスボイスレッスンでは、経験豊富なボイストレーナーが、あなたを本物のミックスボイスへと導きます。

それでは!