こんにちは、WACCA MUSIC SCHOOLです。
今回は、カラオケの採点でよく目にする「こぶし」について解説します。
演歌だけでなく、ポップスやカラオケ採点でもスコアに影響する重要なテクニックであり、表現力の高さを評価されるポイントの一つです。
この記事では、こぶしの仕組みや出し方のコツをわかりやすく紹介していきます。
それではいってみましょう!
こぶしとは何か?歌唱テクニックの基礎知識
歌の「こぶし」とは、音をまっすぐ伸ばさずに、音程を小さく上下させて表情をつける歌い方のことです。
特に演歌や民謡でよく使われ、独特の「味」や「哀愁」を出すためのテクニックとして知られています。
たとえば、A3(真ん中のラ)の音を5秒間ロングトーンで出すとします。
最初の3秒まではまっすぐA3を保ち、3秒を過ぎたあたりで一瞬だけ音程をB3まで上げて、すぐにA3に戻すと、その部分だけ音程が一瞬揺れます。
この「一瞬の上げ下げによる音程の揺らぎ」が、いわゆる“こぶし”です。
この小さな揺れによって、声に人間らしい温かみや「哀愁」が生まれます。
ただし揺れすぎるとピッチが不安定に聞こえるため、あくまで「半音未満の細かい動き」で感情を添えるのがポイントです。
英語圏では「melisma(メリスマ)」と呼ばれる装飾的な歌い方に近く、ビブラートよりも瞬間的で強調された揺れが特徴です。
こぶしを上手に使うことで、歌全体に深みや「表情」を加えることができます。
やりすぎると不自然に聞こえるため、使いどころの「バランス」が大切です。
なぜ“こぶし”が歌に表情を生むのか?メカニズムを探る
こぶしが歌に表情を生む理由は、音程のわずかな変化が人間の感情に強く作用するためです。
人は音の高さや強弱、揺れの微妙な違いから、無意識のうちに感情やニュアンスを感じ取ります。
そのため、こぶしのように音程が一瞬だけ上がって戻る動きは、「泣く」「訴える」「余韻を残す」といった人間的な表現に近く聞こえるのです。
物理的には、こぶしは声帯の張力と呼気圧(息の圧力)のバランスによって生まれます。
声帯を少しだけ緩めたり締めたりすることでピッチ(音の高さ)が上下し、その結果として音のうねりが生まれます。
このとき、呼吸を支える横隔膜や腹筋が繊細に連動しており、ほんの一瞬の息の圧変化が「こぶし」の動きを支えています。
また、聴覚的な面でもこぶしには特徴があります。
音が一瞬上がると倍音構成が変化し、響きに抑揚がつきます。
この“倍音の動き”こそが、聞く人にとっての「人間らしい表情」として知覚されます。
つまり、こぶしは単なる音程操作ではなく、声帯・息・共鳴の連携によって生まれる「感情表現の物理現象」です。
その一瞬の動きの中に、歌い手の気持ちや体のエネルギーが凝縮されているからこそ、聴く人の心に強く響くのです。
歌でこぶしを使いこなしたいあなたへ
実践:こぶしを出すためのステップ別練習方法
こぶしを正確に出すためには、音程を上げ下げする感覚を段階的に体に覚えさせることが大切です。
いきなり感覚でやろうとすると、ただのピッチブレに聞こえてしまうことがあります。
ここでは、自然で表情豊かな“こぶし”を身につけるための練習を方法を、各ステップに分けて紹介します。
ステップは全部で6つです。
0.チューナーアプリをインストールする
1.A3のロングトーンで音の安定を作る
2.3秒地点でB3に音程を上げる
3.上げたB3からすぐにA3へ戻す
4.A3に戻るスピードを極限まで早くする
5.実際の歌の中で使ってみる
この流れを繰り返すことで、上げ下げの一瞬をコントロールできるようになり、自然なこぶしが出せるようになります。
それでは、各ステップを順に見ていきましょう。
ステップ0【チューナーアプリを準備しよう】
こぶしの練習を始める前に、まずは音程を正確に確認できるツールを用意しましょう。
スマートフォンの「チューナーアプリ」や「音程が表示されるピアノアプリ」があればOKです。
こぶしは、わずかな音程の上げ下げで成り立つ繊細なテクニックなので、自分の声が今どの音にあるかを視覚的に確認できる環境が重要です。
アプリを起動し、声を出すとリアルタイムで音程が表示されることを確認しておきましょう。
これが、こぶし練習の最初の一歩です。
ステップ1【A3のロングトーンで音の安定を作る】
まずはA3(真ん中のラ)を5秒間まっすぐに伸ばします。
A3が低い、もしくは高いと感じる場合は楽に地声で出せる音程に変えてしまってOKです。
ここではあくまで例としてA3で練習を行います。
喉や顎の力を抜き、息を一定に保ちながら音を揺らさないように意識します。
チューナーを使ってピッチの安定を確認し、まっすぐな音が出せるまで繰り返しましょう。
ステップ2【3秒地点でB3に音程を上げる】
ロングトーンが安定してきたら、3秒地点でB3に音程を上げます。
残りの2秒間はそのままB3の音程でロングトーンしてください。
強く押し上げるのではなく、自然に“ふわっ”と持ち上げる感覚を意識します。
ステップ3【上げたB3からすぐにA3へ戻す】
ステップ3では、B3に上げた音をそのままにせず、素早くA3へ戻します。
この“上げてすぐ戻す”動きこそが、こぶし特有の揺らぎを作り出します。
戻ったA3で音が安定するように意識し、余計な力を入れずに自然な流れで繋げましょう。
ステップ4【A3に戻るスピードを極限まで早くする】
慣れてきたら、A3に戻るスピードを少しずつ速くしていきます。
戻りが早いほど滑らかで自然な“こぶし”に近づきます。
ただし、速すぎてピッチが外れないように注意し、耳で滑らかさを確認しながら練習を重ねましょう。
ステップ5【実際の歌の中で使ってみる】
一連の動きが安定してきたら、実際の歌の中で試してみます。
語尾やサビ前など、感情を込めたい部分に1回だけ取り入れるのが自然です。
カラオケ採点では語尾での短い上げ下げが“こぶし”として判定されやすく、得点アップにもつながります。
狙って出すのではなく感情の流れで自然に出ることを目指しましょう。
歌でこぶしを使いこなしたいあなたへ
よくある失敗とその改善ポイント
こぶしの練習を始めたばかりの人がよく悩むのが、「思ったように揺れが出ない」「音がズレて聞こえる」という問題です。
これは、こぶしの仕組みを理解しないまま感覚だけで真似してしまうことが原因です。
正しい練習のコツを知らないまま続けると、いつまでも自然なこぶしが身につかず、声が不安定になってしまいます。
ここでは、こぶしの練習で多くの人がつまずく5つの失敗と、その改善方法をわかりやすく解説します。
① 音の揺れ幅が大きすぎる
こぶしを強調しようとして、音程を大きく動かしてしまうケースです。
練習段階ではA3からB3までの全音で構いませんが、実際の歌う場合は歌いたい曲をYouTubeで0.25倍速再生し、どの音程とどの音程のこぶしになっているのかを確認し、その通りになるように練習しましょう。
② 揺れが遅くてビブラートになる
揺れのスピードが遅いと、こぶしではなくビブラートのように聞こえてしまいます。
「上げて戻るまでを0.3秒以内」で終えることを意識してください。
テンポを一定に保つために、メトロノームを使って練習すると効果的です。
③ 息が足りず音が不安定になる
呼吸の支えが足りないと、音程が安定せずこぶしの動きが不安定になります。
呼吸の支えとは、腹式呼吸によって横隔膜を活性化し、息を一定に吐けるようになることです。
それができないとロングトーンをまっすぐに保つことができないので、どこでこぶしを入れたのかが不明瞭になってしまいます。
そもそもロングトーンがふらついてしまうという方は、まず呼吸の支えを手に入れるように呼吸トレーニングを行いましょう。
④ 狙いすぎて不自然になる
こぶしを「出そう」と意識しすぎると、機械的で不自然な歌い方になります。
こぶしはあくまで“感情の延長”として自然に出るものです。
歌詞の意味を理解し、「ここで何を伝えたいのか」を意識して使いましょう。
⑤ 使いすぎてくどくなる
フレーズごとにこぶしを入れてしまうと、聞き手にとってしつこく感じられます。
まずは原曲が入れている部分にだけこぶしを入れ、慣れてきたら感情を強調したい箇所にだけ取り入れるのが理想です。
過剰に使うよりも、「ここぞ」という瞬間に自然に出すことが最も印象的なこぶしになります。
こぶしは技術ではなく、感情を声に乗せる表現です。
焦らず、ひとつひとつの動きを丁寧に確認していくことで、より深みのある歌声が生まれます。
“こぶし”の練習におすすめな曲3選
実際の楽曲を使って練習することで、こぶしの入れ方・戻し方・感情の乗せ方を自然に身につけることができます。ここでは、こぶしの感覚を掴む練習に最適な3曲を厳選して紹介します。
宇多田ヒカル「First Love」
宇多田ヒカルの「First Love」は、R&B的な“こぶし”を学ぶのに最適な一曲です。
特にサビの「You are always gonna be my love」の「gonna」で、音程を一瞬だけ上げてすぐに戻す“泣きのこぶし”が使われています。
この部分では、声を押し出すのではなく、息の流れをキープしたまま軽く上げて戻す動きを意識しましょう。約0.2〜0.3秒の一瞬の上げ下げをコントロールすることが自然なこぶしを生みます。
YouTubeを0.25倍速で再生し、「gonna」の部分でどの音程に上がり、どのタイミングで戻っているのかを耳で確認し、動きを再現してみましょう。
清水翔太「花束の代わりにメロディーを」
清水翔太の「花束の代わりにメロディーを」は、ポップスの中で感情をこめた“泣きのこぶし”を学べる代表的な楽曲です。
特にサビの「花束の代わりにメロディーを〜」の語尾の部分で、音を一瞬持ち上げてすぐに戻す動きが顕著です。
この部分では、「上げ幅」よりも「戻るスピード」がポイントです。息の支えをしっかり保ちながら、滑らかに戻すことで自然な“こぶしの涙”を表現できます。
藤井風「帰ろう」
藤井風の「帰ろう」は、静かな曲調の中に繊細な“こぶし”が溶け込んだ練習にぴったりの曲です。
「五時の鐘は鳴り響けどもう」の「もう」など、細かいこぶしが随所に散りばめられています。
声を強調しすぎず、あくまで感情の余韻として自然にこぶしを入れる大切さが学べる一曲です。
これら3曲を段階的に練習していくことで、“狙って作るこぶし”ではなく、“感情の流れから自然に生まれるこぶし”を体得することができます。
よくある質問
こぶしの練習をしていると、「これで合っているのかな?」と感じる瞬間が誰にでもあります。
ここでは、そんな時によく浮かぶ疑問をまとめて、わかりやすく解説していきます。
仕組みを理解しながら練習することで、こぶしを“狙って出す”のではなく、“自然に滲み出る”ように身につけられます。
Q1. こぶしって何?
こぶしとは、音程を一瞬だけ上げてすぐ戻すことで、歌に“泣き”や“揺れ”を加えるテクニックです。
ビブラートのように周期的に揺らすのではなく、一瞬の“上げて戻す”動きで感情を表現するのが特徴です。
演歌だけでなく、ポップスやR&Bでも使われており、宇多田ヒカルの「First Love」の「gonna」のように、自然なこぶしが曲の感情をより深く伝えています。
こぶしを使うことで、声に人間的な温度や余韻が生まれ、歌全体に説得力が増します。
Q2. こぶしは誰でも出せるようになりますか?
はい、出せます。
ただし、喉の力みを取り、息の流れを安定させることが重要です。
ロングトーンでピッチを安定させる練習を繰り返すことで、こぶしを出すための基礎が整います。
Q3. こぶしを入れるときの注意点は?
「どこにでも入れよう」とせず、感情を強調したい一瞬にだけこぶしを入れることが大切です。
入れすぎるとピッチが不安定に聞こえたり、表現がくどくなる原因になります。
Q4. カラオケ採点ではどうやって“こぶし”が判定されるの?
採点システムは、音程が短時間で上がってすぐ戻る波形を検出して“こぶし”と判断します。
語尾で一瞬だけ音を上げて戻すと、採点で「こぶし」として加点されやすくなります。
ただし、機械的に狙いすぎると不自然に聞こえるため、あくまで感情の流れの中で自然に出すことを意識しましょう。
まとめ
こぶしは、音程を上げて戻すというシンプルな動きの中に、歌い手の感情や個性が最も表れやすいテクニックです。
無理に「出そう」とするよりも、息の流れを一定に保ち、ロングトーンの中で自然な揺れを感じることが上達への近道です。
まずはA3→B3→A3の一瞬の上げ下げを丁寧に繰り返し、徐々に自分の歌に溶け込ませていきましょう。
そして、感情が高まった瞬間にこぶしが自然と生まれるようになれば、それが“本物のこぶし”です。
焦らずに、あなた自身の声と感情で「揺らぎ」を作り出していきましょう。
東京のボイトレスクール「WACCA MUSIC SCHOOL」の無料体験レッスンはこちら!